雛菊の剣

ベッドで眠っている雛菊。その横に立つ雛菊の母と九郎、陽子。
「こんなことになってしまい、申し訳ありません」
「いいえ、あなた以外に雛菊を守れる人はいませんから。これは、雛菊の運命でしょう。どうぞ、その剣を持って行ってください。剣がなければ、もう雛菊が襲われることもないでしょう」
「雛菊が眠ったままでもいいんですか!?」
「それが運命であれば」
「でも」
「やめろ、陽子。剣は預かっておきます。あと、雛菊に何かあったときのためにカラスたちを置いていきます」
「ご自由に」
「最後に聞きたいことがあります」
「何でしょう？」
「雛菊は双子ですか？」
雛菊の母は九郎をじっと見たまま何も答えようとはしなかった。
「そうですか。行こう、陽子」
九郎は陽子の手をつかんで、部屋から出て行った。

夜道を歩く九郎と陽子。
「そうですかって、何よ」
「答えてはいけない質問だったのさ」
「雛菊は双子なの？」
「そういうことだ。剣も片割れを求めている」
「それを捜すのね」
「ああ。親父に会ってくる。Pと剣を預かってくれ」
九郎が剣を握り締めたまま目を閉じた。眉間にシワがより、剣を握る腕がブルブルと振るえ出す。剣が一瞬にしてタバコぐらいの大きさになった。九郎が剣を差しだし、陽子が頷いて受け取る。
「Pは体力を取り戻すために休んでいるだけで、眠ってはいない。この剣があれば今でもお前を守ることができる」
「私より、九郎は大丈夫なの？この剣がなくて」
「剣がなくても俺は闘ってきた。そして、今も生きている。雛菊がいる限り、俺は死なない」
「何だか羨ましいな」
「？」
「な、何でもないわよ。さっさと行きなさいよ」
「ああ。元気でな」
「あんたこそ、元気で帰ってきてよ」
九郎はにっこり笑って駆け出した。
『あんた、九郎に惚れたね』
陽子は頭に響いた声にぎょっとして、見回したが誰もいない。緊張した面持ちをしながらも慌てずに走り出した。

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