雛菊の剣

「剣の持ち主を殺したら、親父が許すわけないだろ」
六郎に向かって九郎は吐き捨てるように言った。
「はは。バレちゃったか。九郎君は利口だな。そう、殺しちゃいないさ。Hしたんだ。そしたら、どうなったと思う。おこちゃまな九郎君に分かるかな？」
九郎は表情を変えず、何も言おうとはしない。
「剣の持ち主ではなくなった。あの娘の剣は、今新しい持ち主を探している。すぐに見つかるかもしれないし、永遠に見つからないかもしれない。親父には叱られたが罰は受けなかったぜ。多分親父もやっちゃったことがあんだろ」
六郎は肩に担いだ白菊を揺らし、
「この娘を今の運命から解放するためには、Hしちゃえばいいんだ。九郎君が守ってる雛菊ちゃんだっけ、その娘もHしちゃえば解放されるぞ。Hが怖いんだったら、俺が代わりにやってやる」
「今度は親父に殺されるぞ」
六郎は九郎の言葉にぞっとした。
「お前に、だろ」
「親父にだ」
「何故だ。言えよ」
九郎は答えようとしない。
「お前、何か知ってるな。Hで剣の持ち主が解放される事を教えてやったんだ。お前も、知ってることを言え」
「知らない方がいいこともある」
「けっ！」
「これだけは言っておく。白菊を守るんだったら、それなりの覚悟をしろ」
「弟のくせに生意気だな」
「あんたには期待している。あんたと二人だったら、あいつと闘うことになっても、何とかなるかもしれない」
「あいつって誰だ？」
「闘うことになったら分かる」
「お前が殺した五郎よりも強いってことか」
「一郎と同じぐらい強いと思う」
「ば、バカ言え。一郎と同じぐらい強かったら、俺たち二人でも勝てやしない」
「勝てるとは言ってない。何とかなるかもしれないって言ったんだ」
六郎の顔から笑みが消えた。

雛菊の部屋。ベッドに横たわる雛菊と白菊。ベッドの傍らには九郎、六郎、陽子、雛菊・白菊の母がいる。陽子に預けられていた剣がベッドに置かれ、五郎が持っていた剣がベッドに立てかけてある。
「何も起きないじゃないかよ」
六郎が九郎に言葉を投げつける。ベッドに置かれた剣から鈴のような音がし、九郎がベッドに立てかけてある剣を睨みつけながら呟いた。
「このくそが」

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