雛菊の剣

雛菊と白菊が横たわるベッド。そのベッドに立てかけてある半身の剣から怒りのオーラが立ち上がってくる。
「何、偉そうにふんぞり返ってるんだ」
九郎が剣に言葉を投げつけた瞬間、剣が九郎の胴を横一線に切り裂く。激しい打撃音がし、剣は九郎の胴の途中で止まった。
『こやつ』
九郎が剣を抜くと、血が吹き出た。吹き出る血などお構いなしに、九郎は剣をベッドの横に突き立てた。
「ちゃんと聞け！」
ベッドに置かれていた小さな剣が鈴のような音を立てる。それは澄み切った音だった。九郎の傷はふさがってきていたが、大量の出血で立っていられずに崩れ落ち、大の字に倒れた。ベッドの横の剣が浮き上がり、九郎の腹に向かって飛んだ。剣は九郎の腹に飲み込まれ、九郎の体は大きく痙攣した。ベッドの上の剣も九郎の腹へ入って行った。
「なんだよ、この悪趣味なショーは」
六郎が顔をしかめて言った。陽子は目を閉じたいのを必死にこらえて、九郎を見つめている。雛菊・白菊の母は静かに娘たちを見守っていた。九郎の口から獣のような叫び声が上がり、一体となった剣が九郎の腹から飛び出す。剣は九郎を愛おしむように憎むように見つめた後、屋根を突き破って天空へと消えて行った。

「すげえ」
六郎が思わず呟く。ベッドの上で、雛菊が欠伸をしながら伸びをした。
「雛菊！」
陽子は急いでベッドの横に行き、雛菊の手を取った。
「あ、陽子ちゃん。あれ？ここ、家？パゲは？パゲは無事？」
陽子が振り返った方を雛菊も見たが、そこには大量の血があるだけで、誰もいなかった。
「あれ、パゲの血？」
頷く陽子。
「パゲ、死んじゃった？」
「大丈夫。すごく丈夫な奴だから」
「パゲ？あいつ、パゲって呼ばれてんだ」
六郎が大声で笑う。
「うるさいわね」
白菊がいつの間にか起きていた。雛菊は自分と瓜二つの白菊を見て、言葉を失う。
「私は白菊。あなたは？」
「雛菊です。よろしくお願いします」
雛菊はペコリと頭を下げた。その頭を撫でる白菊。
「私たち、双子？」
白菊が、母に聞いた。母は微笑みながら頷いた。
「それにしても笑えるな、パゲってのは」
六郎は腹を抱えて笑いながら上に向かって言った。
「お～い、パゲ」
「パゲ、いるの？」
「ああ、くたばりそうなくせに俺たちのこと見てるよ」
「パゲ、ありがとう」
雛菊は上をむいて微笑んだ。

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