雛菊の剣

「謝る気はない」
九郎は五郎との距離を一気に縮め、跳び上がって硬化させた右拳を五郎のこめかみに打ち込もうとするが、五郎が振り回した腕の筋肉に弾き返されて、九郎の体は数メートル飛んだ。
「お前の武器なんぞ、俺には全く効かぬわ」
九郎は、五郎がしゃべっている間に駆け戻り、刀のように鋭利にした右腕で五郎の脚を斬ろうとするが、五郎が剣で受け、九郎を蹴り飛ばした。
「どうした。あの物騒な小鳥はいないのか？」
九郎が五郎を睨みつける。
「いないのか…。お前だけで俺に勝てるわけがなかろう。こっちにきて座れ。一瞬で殺してやる」

九郎はつばを吐き捨て、再び五郎に向かって駆ける。五郎は、カッと目を見開き、九郎に向かって肩から突っ込んでいく。巨体に似合わず、その速さは九郎を凌駕していた。避けるまもなく、九郎は五郎のショルダータックルにぶっ飛ばされた。九郎が地面に落ちる前に追いついた五郎が剣を一閃する。九郎は左足を硬化させて剣を受け、地面へ跳んだ。休む暇もなく凄まじい勢いで剣が振り下ろされる。右腕を硬化させて受け止めるが、体はしびれ、地面に押しつぶされそうになる。その圧力が消えた瞬間、剣が九郎の左腕を食いちぎった。宙を舞う左腕は大鷹へと姿を変えた。
「この化け物が！」
五郎の剣が大鷹を切り裂こうとするが、大鷹はそれをするりとかわし、くちばしで五郎の目を狙う。五郎は素早く左腕で大鷹のくちばしを受け、弾き返す。大鷹は姿勢を戻し、五郎の左腕から剥ぎ取った皮膚を五郎に向かって放り投げた。
「あの小鳥と違って物理攻撃か。俺には勝てんな」
大鷹が威嚇の声をあげる。立ち上がり、後ろへ跳ぶ九郎。
『くそっ、まだ体が痺れてやがる。なんて力だ』
大鷹が五郎に攻撃を仕掛けるが、ことごとく剣に弾き返される。苛立ちから怒りの声をあげる大鷹。大鷹は五郎を睨みつけて、飛び去っていく。
「あいつの方がお前より歯ごたえがあったのに、見捨てられたようだな」
五郎が九郎を嘲笑う。九郎が右腕を刀に変えて、五郎に向ける。
「ほう。その生っちょろい刀でこの剣に勝てるとでも思っているのか。憐れな」
深呼吸する九郎。
「さっきからぐちゃぐちゃうるさい奴だ。さっさとかかってこいよ」
「吐いたつば、飲むなよ」
五郎が凄まじい勢いで剣をふるう。九郎はそれを避けながら五郎を切り裂こうとするが、それはことごとく剣に弾き返される。どちらが優勢ともつかぬ攻防が繰り広げられる中、さすがに九郎の方に疲労の色が現れ、押され始める。九郎は下がるまいと、歯を食いしばって刀を振りまくる。
「ん!?」
五郎が上からの殺気を感じ、見上げる。大鷹が矢のように急降下してくる。五郎の右腿を切り裂く九郎の刀。大鷹は五郎の右目をもぎ取り、その勢いのまま地面に直撃しようとしていた。九郎の右腕が柔化し、クッションとして大鷹を救う。五郎はその隙を見逃さず、剣で九郎の右腕を切り落とした。

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