雛菊の剣

「源！」
陽子が叫び、表情は花が咲いたかのようにパッと明るくなった。
「待たせたな」
「剣だ、あの剣を奪え」
猿のような男の叫びに呼応し、四人が九郎の前に立ちはだかった。九郎が入ってきた入り口にはカラスたちがひしめき合っている。四人のうちの小さな男が九郎に言葉を投げつけた。
「けー！雑魚をたくさん倒して、お疲れさんかぁ？」
「別に」
「まあ、そんな特別な剣を持っていれば、誰だって出来ることだわなぁ」
「確かにこの剣を持っているだけで元気になる」
九郎が剣を投げた。剣はくるくると高速で回転しながら、四人に向かっていった。四人は軽く剣を避けた。剣は陽子たちが閉じ込められている鳥かごを破壊し、陽子の前に突き刺さった。
「持っとけ」
陽子は慌てて剣を抜き、頷いた。
「奪え！」

四人が剣を奪おうとしたが、剣の殺気が凄まじく、近づくことができない。
「俺と剣はつながっている。無駄なことだ」
「けー！んじゃあ、お前を殺せばいいってことだ。剣を手放したことを後悔しな」
「よく動く口だな。まとめて、かかってきな」
九郎の後ろでカラスたちがいきりたつ。
「けー！お前と焼き鳥たちなんざ、俺様ひとりで十分」
騒ぐカラスたち。九郎が片手をあげると、一瞬にして静まり返った。表情のないカラスたちの顔がニヤニヤと笑っているかのように見える。小さい男が一歩前に出た。
「こいよ、チビ」
九郎の言葉が終わらない内に一瞬にして小男は九郎の前に立ち、その手に握られた刀が九郎の左胸を刺し貫いていた。
「俺は誰よりも速く動ける。体を固くする間もなかっただろ。俺の名を教えてやるよ、飛燕だ。けーっけけっけっけ」
飛燕が一瞬にして刀を抜くと、九郎の胸と背中から血が吹き出した。飛燕は得意気な顔をして振り返るが、仲間三人はじっと九郎の方を見ている。
「いってー！」
驚いて振り返る飛燕。九郎は少しふらついていたが、血はもうとまっていた。
「けー！化け物め。お前、心臓ねえのか？」
「俺はお前より速い奴と闘ったことがある」
「俺より速い奴だってぇ!?けー！ほら吹いてんじゃねえ。それで、そいつにどうやって勝ったてんだ？」
「負けたよ」
「けーっけけっけっけ！俺より速い奴と闘っても何の意味もねえ。大体俺より速い奴なんていねー。このほら吹き野郎が」

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