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雛菊の剣

豊​高​の​不​良​た​ち​に​絡​ま​れ​る​雛​菊​と​陽​子​。 雛​菊​は​顔​を​見​せ​ぬ​青​年​に​救​わ​れ​る​。 屋​上​に​残​さ​れ​た​白​骨​死​体​。 彼​の​目​的​は​…​。
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お前が笑っている時、俺も笑ってる/雛菊の剣(#1)
地方都市の繁華街の路地をスクバを抱えて走る男子中学生。
「待ちなさい!」
二人の女子高生が少年を追う。緑のブレザー、紺のミニスカートに黒のハイソックス。源氏学園の制服だ。前を走る中背で男前なショートカットの子はスクバを持っているが、髪を二つに結んだ小柄で可愛らしい子は何も持っていない。どうやら、小柄な子のスクバを少年が奪い去ったらしい。
「待ちなさいって言ってるでしょ!」
路地の中央に学ランを着た高校生が立っている。ひょろりと背が高く、学ランの前は留めず、下には真っ赤なTシャツを着ている。中学生は高校生にスクバを渡して、そのまま走り抜けて行った。ショートカットの子が男を睨みつける。
「あなた、豊高の不良ね。スクバ、返してよ」
男はニヤニヤと小馬鹿にした笑みを浮かべる。
「これか?ほれ」
男がスクバを投げ渡した。
「今度こんなことしたら、承知しないわよ。いいわね」
ショートカットの子が振り返ると、小山のように太った豊高の学生が、うまい棒をむしゃむしゃ食べながら立っている。
「!?」
「金、置いてきな」
ひょろりとした男がいやらしい笑みをたたえたまま言葉を投げつけた。
「大声出すわよ」
「そしたら、お嫁に行けなくなるかもな」
ひょろりとした男がサバイバルナイフを取り出した。
「叫んでもいいんだぜ。お前の顔を傷ものにして、務所に行くさ。務所に入れば、箔がつくからな」
ショートカットの子の顔は真っ青になり、慌てて財布を取り出して、中の札を全部差し出した。
「いい子だ。行っていいぞ」
「行くよ、雛」
「そっちのちっこいのはまだだ。お前も金を出しな」
「嫌です」
「雛!」
「陽子のお金も返しなさい」
「へー、面白い。気の強いちびっこだぁ。俺様好みだ。お前は、早く行け」
「雛!」
「言いなりになるから、この人たちつけあがるのよ」
陽子は駆け出す。
「ほ~ら、強いお友達は逃げちゃったよ。たっぷり楽しませてもらおうかな」
「汚らわしい獣!」
「すぐにお前も獣の仲間入りさ」
大笑いする男の顔が引きつった。突然男子高生が現れたからだ。緑のブレザーに紺のズボン。雛と呼ばれていた女子高生と背中合わせに彼は立っていた。
「お前!どこから現れた!?」
「雛菊、振り向くな!」
雛菊の背中に、さほど大きくない筋肉質の背中が感じられた。彼の背中は雛菊に強い意志を伝えていた。
「その制服は、ちびっこと同じ源氏学園だな。ちびっこの彼氏か?」
『え!?彼氏!』
赤くなる雛菊。
「男のくせに可愛い顔しやがって」
『わー!可愛い顔だって!どうしよう』
「この世の地獄を見せてやるよ」
「雛菊、しっかりと目を閉じていろ。お前が見るものじゃない」
雛菊は大きく頷いて、嬉しそうにぎゅっと目を閉じた。
「彼女に無様な姿は見せられねえってか。けっけっけっけ」
男の叫び声が路地に響き渡った。


「雛!目を開けなさい!」
「陽子ちゃん?」
「そう、陽子。なんで目を閉じてるの?」
「だって、私の彼氏がしっかり目を閉じてろって」
雛菊の頬がピンク色に染まる。
「彼氏?何言ってるのよ。とにかく、目を開けなさい!」
雛菊は不満げな顔をしながら目を開けた。
「人の恋路を邪魔するものは馬に蹴られて死んじゃうんだぞ」
目の前には陽子と警官がいた。そして、二つの血溜まりが。

路地に接するビルの屋上にさきほどの男子高生が立っていた。その足元には頭が叩き潰された不良二人の死体。上空を舞う数十羽のカラスたち。男子高生はカラスを見て微笑んだ後、雛菊たちがいる路地と反対側の路地側へ飛び降りた。

「な、何あれ!?」
陽子が上空を指さす。数十羽のカラスたちがビルの屋上に殺到していく。口をあんぐりと開けて驚いている警官。雛菊はカラスに興味を示さず、彼を探している。

朝、通勤・通学時間の電車の中。座っていた陽子は、前に立つサラリーマンが開いている新聞を見てギョッとした。
『ビルの屋上に二つの白骨死体』
昨日陽子たちが不良にからまれた辺りのビルの屋上に真新しい二つの白骨死体が見つかった。見つけたのは隣のビルに入っている学習塾の先生だった。授業中、すごい音がしたので、ブラインドの隙間から隣のビルを見ると、屋上にカラスが群がっていた。授業に戻り、三十分ほどたったころ、再びすごい音がした。もう一度ブラインドの隙間から見てみると、カラスは一匹もいなかった。一斉に飛び立つ音だったのだろう。ビルの屋上に残されたものが何なのか最初は分からなかった。その場から離れることができず、じっと見ているうちにそれが人の骨であることに気がつき、慌てて警察に電話した。警察が調べたところ、二人とも頭が潰されており、服はボロボロになっていたが、豊臣高校の男子の制服だということが書かれていた。
『雛には黙ってた方がいい』

その日、雛菊は学校に来なかった。次の日も。その次の日に登校してきた雛菊の顔には憔悴が見えた。そして、とても難しい顔をしていた。陽子は雛菊に近づいて囁いた。
「雛、あの記事見たの?」
頷く雛菊。
「誰にも言わないで」
「分かった」
雛菊は難しい顔をしたまま、クラスメイトたちをゆっくりと見回していた。その様子は困っている小動物のようで、陽子は思わずクスッと笑ってしまった。
「何か探してるの?」
「この中にいるのよ。あの私の彼氏が」
「この中に!?」
「しっ!」
「どういうこと?」
「うちの高校の制服を着てたんだから」
「別のクラスかもしれないし、学年も違うかもよ」
「あ!?」
雛菊は途方に暮れてしまった。

昼休み。雛菊は陽子と一緒にお弁当を食べたが、一言も話はしなかった。もう昼休みも終わろうとする時間に雛菊が教室を出た。雛菊をつける陽子。雛菊は階段を上り、屋上へ出た。陽子は、雛菊が閉めた屋上へのドアをゆっくり開けようとしたが、ドアはびくともしなかった。

雛菊が一人屋上に立っている。祈るように両手を組み、目を閉じてつぶやいた。
「いるのなら出てきて」
雛菊は背中にあの背中が触れるのを感じた。
「振り返るな」
「それがあなたのルールなの?」
「お前を守るためだ」
「私を?」
「そうだ」
「私を守るためにあの人たちを殺したの?」
「…」
「答えて」
「…」
「私には覚悟ができています」
「…」
「私の彼氏が殺人者だとしても愛する覚悟ができています。自首する気になったら言ってください。私はあなたを祝福し、あなたについていきます。私の涙はもう涸れてしまいました。もう私は泣きません」
「話はそれだけか?」
「あなたの名前を教えて」
「名前を教えるわけにはいかない。『影』とでも呼んでくれ」
「ハゲ!?はげてるの!?」
雛菊はポロポロと涙を流す。
「涙は涸れたんじゃないのか?」
「あまりにも意外だったから」
「ハゲじゃない。影だ。か・げ」
「影…可愛くない」
「ただの呼び名だ」
「そういうわけにはいかないわ。そうだ!二人の意見の間を取って、パゲってのはどう?」
「パ、パゲ!?」
「そう、パゲ。決定!」
「二人の意見の間って…まあいい、好きにしろ」
「パゲはどうして私を助けてくれたの?」
「世の中には知らない方がいいこともある。聞きたいことはそれだけか?」
「どうして顔を見せてくれないの?」
「俺が誰だか知らない方が、お前を守りやすい」
「もし私を守ることができなかったら、どうなるの?」
「兄貴の一人が俺を殺しに来る。兄貴に殺されるか、兄貴を殺して兄貴の仕事を奪うかのどっちかだ」
「そんな…そんなこと…」
「分からなくていい。知れば知るほど、不幸になる」
「パゲは、私のこと好き?」
「ああ、好きだ。お前が笑ったり、微笑んだりしてるのを見てると、自分の運命と向き合える」
「ずるいな」
「?」
「パゲは私の笑顔を見てるのに、私はパゲの笑顔を見てないんだよ」
「お前が笑っている時、俺も笑ってる」
「そっか」
雛菊が微笑んだ。彼も微笑みを浮かべる。
「お前の友達が心配している。行ってやれ」
雛菊の背中から彼が消えた。屋上入口のドアが開き、陽子が現れた。
「雛、何してるの!?」
雛菊は駆けより、陽子に抱きつく。
「パゲと話してたの!」
「パゲ!?」

合唱部の練習が終わり、陽子はいつものように雛菊と帰ろうとするが、雛菊は陽子を引き留める。
「どうしたの?」
「パゲがまだ出るなって」
「?」
「正門に豊高の不良がいるの」
「え!?」
「私たちを探してるのよ」
「そんな…どうやって私たちを探すのよ」
「あの時の中学生と警官を連れてきてるって」
「警官が不良の言うこと聞いてるってわけ?」
頷く雛菊。
「そんなばかな」
「お願い。少し待って」
雛菊のお願いだよぉな顔に陽子が頷く。

校庭で不良二人と中学生がカラスを追っている。カラスはスマホをくわえて飛んでいる。あの時の警官がジャージ姿で門のところに立っていた。その顔は狂気を帯びていて、ふらりと門から去っていった。カラスはドアが開いていた部室に飛び込んだ。カラスを追って、三人が部室に入った途端、ドアが閉められた。真っ暗な部屋の中、ドアの辺りから声がする。
「あいつらの死体を残しておいたのは警告だった。お前らも死にたいのか」
「シネー!シネー!」
カラスが騒ぐ。クスクスと笑い声が聞こえる。
「お前、バカじゃないの?暗闇だと思ってるかもしれないけど、はっきりと見えてんだぜ」
「俺にも見えてるぜ、その可愛いクリクリヘアーが」
「俺もだ。お前一人で俺たち三人とどう戦うつもりだ?」
「お前らは上の命令で動いているのか?」
「何のことだ」
「仲間の仇討ちってことか…他にも仲間はいるのか?」
「いっぱいいるぜ」
「なるほど…。お前たちを殺せば、仇討ちは止まりそうだな」
「コロセー!コロセー!」
「ふざけたことぬかしやがって」
中学生がサバイバルナイフをパゲの心臓めがけて突き刺す。渾身の力をこめて突き出されたサバイバルナイフはパゲの胸に当たってはじけとんだ。パゲが右フックを中学生の側頭部に叩き込むと、グシャッという嫌な音がして中学生は倒れ、その体は意味なく痙攣していた。
「貴様…」
不良高校生二人は目配せをして、パゲの両サイドに別れ、二人同時にパゲの両脇腹にサバイバルナイフを突き立てた。サバイバルナイフは二つともパゲの脇腹に一ミリも侵入することを許されなかった。パゲの両手による裏拳が二人の側頭部をとらえた。グシャ。命は物と化した。

「パゲがもう大丈夫だって言ってる」
満面の笑みを浮かべる雛菊。陽子は雛菊と帰路についた。

陽子が塾からの帰り、人通りのない道を歩いていた。電信柱の陰からパゲが現れた。
「誰!?隣のクラスの…」
「源九郎だ」
「何の用?告白?私、あなたみたいなタイプには興味ないんだ」
「俺は雛菊を守らなければならない」
「あ、あなたがパゲ!?」
九郎のプライドが頷かせない。
「私に何の用?雛に正体を隠しているのに、どうして私に…。まさか…」
頷く九郎。
「お前はあの一件を知っている。雛菊を守るためには、お前はいない方がいい」
陽子は九郎を睨みつける。
「助けを求めて叫ばないのか?」
「叫ぼうとした瞬間に私を殺すつもりでしょ」
「賢いな」
「人を殺して心が痛まないの?」
「死んだら、ただの物だ」
「雛を守る理由は何?」
「それが俺の役目だ」
「雛の何を守っているの?」
九郎は言いよどんでいる。そんな九郎を見て優しく微笑む陽子。
「あなたは私を殺すかどうか迷っている。私がいなくなって悲しむ雛を見たくないから」
「馬鹿馬鹿しい」
「あなたは人と人のつながりの大切さを知っている。私も親友として雛を守る。二人で雛を守ろう」
「お前には無理だ。あの時もお前は雛菊を残して逃げた」
「警官を呼びに行ったの。あなたと私で守り方が違う。それでいいじゃない」
「今、俺に殺された方が楽かもしれないぞ」
「人生は闘いだよ」
九郎が微笑み、陽子の胸がざわついた。
「P!」
暗闇から頭の羽毛をパンクに立ち上げたコバルトブルーの小鳥が現れ、九郎の肩にとまった。
「こいつはP。Pがお前を守る」
「ぴーぴぴっぴっぴ!」
Pが羽をバタつかせ、猛烈に抗議している。
「うっせえな。彼女は雛菊にとって大事な人だ。お前が守れ」
「ぴー!」
Pが一瞬にして猛烈な勢いで九郎の目をついた。叫びだしそうになる陽子。Pは弾き飛ばされ、九郎の手に捕まれる。九郎の目は傷一つついていなかった。
「気持ち悪いだろ。俺、きっと人じゃないんだ」
九郎は陽子の顔を見ずに告げた。陽子は胸がしめつけられた。
「言うこと聞けないんだったら、焼き鳥にして食っちまうぞ!」
「ぴぃ~」
「何言ってんだ。お前のこと嫌いだったら、こんなに長く一緒にいないよ」
のけぞって大笑いする九郎とP。
『こいつ、鳥と下手な漫才やってる。ある意味、人じゃない』
Pが九郎の手から飛びたち、陽子の肩にとまった。
「Pは人が食うものだったら、何でも食べる。そして、これ」
九郎が陽子に小さなケースを渡した。
「Pが闘うとき、これを出してやってくれ」
「豊高の子を殺したことはどうするの」
「やつらは豊臣家の末裔。俺とは別の意味で人間じゃない。あの学校の地下には行方不明になった人たちや、死体がある。やりたい放題なんだ。奴等に雛菊のことが知れたら、やっかいなことになる」
「私たちの知らない世界なのね。あなたは忍者?」
「違う。甲賀や伊賀の連中は、豊臣よりもやっかいだ。できれば闘いたくない。織田家の末裔みたいにフィギュアスケートでもやっててくれればいいのにさ」
「雛は姫様なの?」
「まあな。でも、俺が雛菊を守るのは、雛菊の力を使わせないためだ。力を使うことがなければ、雛菊は普通の女として幸せな人生を送ることができる」
「おいおい、いい加減にしなさい」
闇の中から白いヒゲをたくわえた白髪の老人が現れた。
「七郎とこのじじいか」
「ペラペラとしゃべりおって。お前の始末は七郎様がやってくださる。その女子も殺さなければならんな。七郎さまがお前を始末した後に、わしが楽しんでやる」
「なんだ、じじい。お前、Pに勝てるつもりなのか」
鼻で笑う老人。
「おい、P!こいつ、お前に勝てるってさ」
「ぴーぴぴぴっぴっぴ」
大笑いするP。
「鳥風情にこのわしが負けるわけがなかろうが。お前さえ手を出さなければ、今すぐにでもその女子を始末してくれるわ」
「分かった。俺は手を出さない」
「母親の名にかけて誓えるか」
「誓うよ」
老人はニヤリと笑うと、信じられないスピードで陽子に向かっていく。矢のように迎え撃つP。老人の小刀がPのクチバシを弾く。Pの連続攻撃を老人は小刀でことごとく受け止める。
「P!手を抜くんじゃない!そんなことじゃ、こいつをお前に任せられないじゃないか!」
「ぴー!」
Pが陽子の方に戻りながら叫んだ。陽子は慌ててケースを出した。Pがケースを蹴飛ばすと赤い粒が跳び出し、飲み込んだ。すぐ後ろに迫る老人。振り向いたPの全身はルビーレッドになっていた。その口から吐き出された紅蓮の炎が老人を包み、灰だけが残った。Pが九郎の元に戻ろうとしたが、九郎は陽子を指差した。Pは陽子の肩にとまり、ぐったりとしている。
「悪いが今日は雛菊の家に泊まってくれ」
「そんな急に言われても」
「頼む」
九郎が深々と頭を下げた。陽子の心がざわついた。
「分かった。分かったから、頭を上げて」
「Pは疲れきっている。優しく撫でてやってくれ」
陽子がPの頬の辺りを優しく撫でた。
「ぴぃ」
Pは嬉しそうに鳴いた。九郎の姿が消えていた。陽子は一歩一歩踏みしめながら歩き出した。

山中、木々に囲まれて対峙する九郎と七郎。七郎は長身で長いストレートの黒髪を後ろに結び、一重の鋭い目で九郎を睨みつけていた。
「お前のとこのじじいはPが灰にした」
「あの化け物鳥は疲れてお前を助けにこれないだろう。じいは役目を果たした」
「無駄死にだな。Pはあいつを守ることになった。あいつを放って俺を助けにくることはない」
「化け物同士ってのは薄情なものだな」
九郎は嘲笑うかのような笑みを浮かべて七郎を見ている。
「気持ちの悪い化け物野郎が。一族の秘密を漏らしたお前を掟にしたがって殺すことができて嬉しいよ」
「刺客のお前を殺せば、俺は許される」
七郎の顔が憤怒に彩られる。
「母上は化け物のお前を産んで死んだ。母上の腹を食い破ってあの化け物鳥が出てきた。お前たちが母上を殺したんだ。俺は絶対にお前を許さない。俺は母上の仇をうつ。お前を殺した後は、あの化け物鳥を殺してやる」
「八郎もそんなこと言ってたな」
「八郎…」
「あいつは自分が自由になりたくて、自分が守るべき姫を殺した。掟に従い、親父に指名された俺が殺した。それだけだ」
「八郎を殺したのか!許さん!許さん!許さん!お前をぶっ殺す!」
七郎が後ろに跳びながらボールを九郎の上に投げ上げ、小さな刃物を投げてボールを突き破る。ボールが弾けて、飛び散った液体が九郎に降りかかる。液体を振り払った手が泡立つ。
「ひーひひっひっひ。やっぱりな。固くできても人間の体。酸で溶けるんだ。お前の体を溶かして砕いてやるよ。この化け物め。自分の体が壊れていく恐怖に怯えろ!」
九郎の腕が剣に変わった。九郎が七郎に切りかかろうとした瞬間、七郎が後ろに跳びながら玉を投げつける。玉は九郎に当たり爆発した。爆発で飛ばされた九郎が木にぶつかり、木は悲鳴をあげて砕け散った。九郎は苦痛に顔を歪めながら立ち上がる。
「なんだ、なんだ。丈夫にできてるんだな、化け物ってのは。腕の一本ぐらいちぎれるかと思ったのによ。まぁ、いいさ。安心しな、今のは小手調べだ。もっと強いのをお見舞いしてやるよ。何じっとしてんだ。ほら、かかってこいよ」
九郎は肩で息をしながら七郎をじっと見ている。
「何か狙ってるのか?それにしても、飛び道具の化け物鳥がいないと、お前って滅茶苦茶弱いんだな。おっと、俺が油断してるなんて思うなよ。お前は化け物だから、腕ぐらい投げてくるかもしれない。図星か?」
「よくしゃべるな」
「お前を殺せるのが嬉しくてしょうがないんだ」

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