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雛菊の剣

豊​高​の​不​良​た​ち​に​絡​ま​れ​る​雛​菊​と​陽​子​。 雛​菊​は​顔​を​見​せ​ぬ​青​年​に​救​わ​れ​る​。 屋​上​に​残​さ​れ​た​白​骨​死​体​。 彼​の​目​的​は​…​。
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九郎の切り落とされた右腕/雛菊の剣(#19)
後ろへ跳ぶ五郎。九郎の切り落とされた右腕は大きな孔雀へと化身した。響き渡る鳴き声。五郎は孔雀を見て笑い出す。
「よりによって孔雀か!飾り物を出してどうするつもりだ」
五郎の言葉にカチンときた孔雀の目が怒りに燃える。大鷹は呆然としてただ孔雀を見ている。孔雀が一声鳴いて、五郎と逆方向に走り出す。五郎の笑いは止まらない。
「逃げ出しやがった」
大鷹の目が恐怖に彩られる。走り出す九郎。
「戻れ!」
大鷹は急いで九郎を追い、前に回って九郎の腹に飛び込む。大鷹は九郎の腹に飲み込まれ、左腕が現れる。孔雀は野原の端まで走ると止まり、五郎の方へ向き直った。笑いつづける五郎。孔雀がニヤリと笑い、羽を振った。10本ほどの羽が五郎に向かって飛んでいく。剣を振り回す五郎。羽は五郎と剣に突き刺さった。突き刺さった部分から血が噴き出る。五郎から、そして剣からも。突き刺さった羽は紅に染まった。孔雀は勝ち誇った鳴き声をあげた。
「化け物孔雀が」
五郎は孔雀に向かって行く。孔雀は小馬鹿にした目で五郎を見、両足を地面にがっちりと食い込ませて、羽を大きく広げた。五郎と孔雀の中間点へと走る九郎。孔雀が目にも止まらぬ速さで羽を振り始めた。凄まじい風が起こり、転がっていた骨は五郎へと向かって吹き飛ばされていく。その中に飛び込む九郎。凄まじい風と津波のように押し寄せる骨のために、五郎はじりじりと後退していく。骨は五郎の体をいたぶり、その視界を完全に閉ざした。骨の津波の中から槍となった九郎の左腕が突き出され、五郎の首を貫いた。風が止み、立ち上がる九郎。ゆっくりと孔雀の方へ向かって歩き出す。骨に埋もれた五郎の死体を踏み越えて歩き、九郎は孔雀の前に立った。勝ち誇った顔をしている孔雀。
「強いな」
鳴き声をあげる孔雀。
「Pか。一緒じゃない」
孔雀は悔しそうな表情をした。
「お前は綺麗だ」
孔雀は嬉しそうに顔を九郎に突き出す。九郎は孔雀の首を撫でてあげた。嬉しそうな声を出す孔雀。
「呼び出すことになってしまって、申し分けなかった。もっと自分を鍛えるよ。戻ってくれ」
孔雀は素直に九郎の腹に飲み込まれ、九郎の右腕が戻った。九郎は気を失い、倒れた。
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さっさとかかってこいよ/雛菊の剣(#18)
「謝る気はない」
九郎は五郎との距離を一気に縮め、跳び上がって硬化させた右拳を五郎のこめかみに打ち込もうとするが、五郎が振り回した腕の筋肉に弾き返されて、九郎の体は数メートル飛んだ。
「お前の武器なんぞ、俺には全く効かぬわ」
九郎は、五郎がしゃべっている間に駆け戻り、刀のように鋭利にした右腕で五郎の脚を斬ろうとするが、五郎が剣で受け、九郎を蹴り飛ばした。
「どうした。あの物騒な小鳥はいないのか?」
九郎が五郎を睨みつける。
「いないのか…。お前だけで俺に勝てるわけがなかろう。こっちにきて座れ。一瞬で殺してやる」
九郎はあなたの方が好きだと思うけど/雛菊の剣(#17)
「誰!?」
陽子は見回したが、誰の姿も影さえも見えない。
『あなた、おっぱいも大きくてナイス・ボディなんだから、告白してみれば。九郎も喜ぶと思うわよ』
「な、なにを言うの。源は雛菊と相思相愛なの」
『九郎は剣を守っているだけ。あの娘を愛しているわけじゃないわ』
「雛菊は源を好きなの。私は友達として雛菊を応援する」
『九郎はあなたの方が好きだと思うけど』
陽子は胸を触る手のひらを感じ、声にならない叫び声をあげた。ベッドを跳び出し、パジャマのポケットにPを入れて、剣を持って部屋を出た。階段を駆け下りる音がする。冷蔵庫の開閉音。階段を駆け上がる音。陽子が部屋に入ってきた。パジャマのズボンに剣を差し、手に持っていたにんにくチューブの蓋を開けた。
「悪魔め!立ち去れ!」
後ろから頭に手を置かれ、陽子は叫び声を上げながら部屋の奥に走り、振り返った。ドアのところに陽子に似た母親が立っていた。
「あんたぐらいの年頃って色々変なことするから、見てて面白いけど、夜中はやめてね。近所迷惑。にんにくしまって、さっさと寝なさい」
頭の中に話しかけていた声の主が楽しげに笑ったような気がした時、頬をやさしく撫でる手を感じた。気がつくと、声の主の気配は消えていた。
あなた、九郎に惚れてるんでしょ?/雛菊の剣(#16)
人里離れた山中で、九郎が天を突く巨木に向かって話している。
「殺さないと、俺が殺されていた」
「七郎から仕掛けたというのは本当か?」
「ああ。八郎の仇だとさ」
「つまらぬことを」
「七郎がいなくなって、悲しい?」
「別に。そういえば、今日は一緒ではないのか?」
「Pか。仕事をしてもらっている」
「一人で女二人を守るのはお前のような小僧には無理だな」
「誰も守らないあんたの知ったこっちゃない。今日は聞きたいことがあって来た」
「俺はクソガキには何も教えん」
「雛菊は双子だな?」
「雛菊って誰だ?」
「雛菊の双子の妹を誰が守っている?」
「何故妹だと分かる?」
「六郎か?」
「さあな」
「五郎か?」
「どうして?」
「五郎はどこにいる?」
「一郎から聞かなかったのはどうしてだ?」
「五郎はどこだ?」
「お前でも一郎が怖いのか」
大きな笑い声が山に響いた。
「一郎を倒したら教えてやることにしよう」
「倒すためには殺すしかない。大事なあとつぎを失ってもいいのか」
「勝てると思ってるんだ。お前って、面白いガキだな。好きにしろ。強いものがあとつぎになればいい」
「分かった。一郎の居場所を教えろ」
「骨の原」
「あんなとこにいるのか。教える気があるんだったら、さっさと教えろ。面倒くさいクソオヤジだ」
九郎は駆けて行った。
「おやおや、話を最後まで聞かずに行っちまったか。間違えちゃったんだけどな。骨の原にいるのは一郎じゃないんだよなぁ」

ちゃんと私を楽しませてよ/雛菊の剣(#15)
駆けていた九郎が立ち止まった。太閤といた女がいやらしい笑みを浮かべて、体を艶かしく動かしながら前からゆっくりと歩いてきた。
「どうしたの?ふらふらしながら同じところをぐるぐる走ってるわよ。私を探してたのかしら?」
高らかに笑う女。九郎の顔には何の感情も表れない。
「私は麝香。坊やは私がまいた香りをかいで、方向感覚がおかしくなってるのよ。そして、これ」
麝香が手を大きく振ると、回りに淫靡な匂いが広がった。
「これで、坊やは私の奴隷。あそこが大変なことになってるでしょ」
麝香が九郎に近づいてくる。
「飛びかかってこないなんて、最初のが効きすぎてもう動けないのかしら。ちゃんと私を楽しませてよ」
麝香が九郎の前で止まり、九郎の股間に手を伸ばそうとしたとき、九郎は麝香の顔に唾を吐いた。麝香はへたへたと座り込み、嘔吐し始める。麝香が顔を上げた瞬間、九郎は再び麝香の顔に唾を吐いた。
「熱い、あそこが熱いよ。あたしを滅茶苦茶にしてー!」
麝香が悶え始めた。九郎が右拳を硬化させて、麝香の頭に振り下ろそうとしたとき、苦無が九郎目がけて飛んできた。右拳で苦無を叩き落す九郎。麝香が来た闇から太閤といた冷たい目をした男が現れた。
「お前と闘うつもりはない。俺は虎牙。そいつを連れて帰りたいだけだ」
虎牙は両手をあげながらゆっくりと近づいてきた。九郎は右拳の硬化をといている。虎牙は寝転びながら悶えている麝香の傍らに座る。延髄に手刀をあてて気絶させて、麝香を肩に担ぎ上げた。
「最初の唾は麝香が使った混乱の香りを凝縮したもの。で、次が催淫の香りを凝縮したものか。えげつないことする奴だな。お前、本当に人間か?」
九郎は何も答えようとはしない。
「俺たちのボスは、お前が俺たちの邪魔になるようだったら、殺すか仲間にしろと言った。で、麝香がお前を仲間にしようとしたんだ。俺は出来ればお前と闘いたくはない。お前も俺たちの邪魔をするな」
九郎は表情を変えず、ただ虎牙の目を見ている。
「何も言わないってことは、いいんだな?」
九郎は何も答えない。
「じゃあな」
虎牙は麝香を肩に担いだまま走り去った。しばらく動かずにじっとしていた九郎の額に汗がにじみだし、呼気が荒くなる。
『なんだ、あの男の迫力は…あの時は牙を隠していたってことか…まあいい、急ごう』
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