雛菊の剣

骨の原に立つ小屋の中。ベッドで眠る少女。九郎は気を失って床に倒れていた。空中に浮かぶ剣が九郎をつつくが、九郎は目を覚まさない。
『これもあのゴリラ男と同じ剣を守る者か。つまらぬ。いつになったら我を使いこなす者が現れるんだ。いっそ、この化け物殺すか…』
剣が九郎の頭上へ移動して制止した。すっと上昇し、下降しようとした瞬間、剣が身震いをした。
『この化け物…まあ、いい。生かしておいた面白そうだ』

九郎が目を覚まして立ち上がった。ベッドの少女を見下ろす。ベッドには剣が立てかけてある。
『雛菊にそっくりだ。雛菊が二人になったら厄介だな』
九郎は微笑み、少女を担ぐと、剣を抱えて小屋を出た。

少女を担ぎ、剣を抱えた九郎が山中を歩いている。
『くそ、こういう時に限ってあの大ガラス現れやしない』
前方から鼻歌を歌いながら痩せた背の高い男が歩いてくる。九郎は少女と剣を下ろし、自分の体のいろんな部分を動かしながら状態を確かめる。男は九郎の数メートル前で立ち止まった。端正な顔に大きな目、長い黒髪、綺麗な立ち姿はまるでモデルのようだ。顔には笑顔が張り付いている。
「六郎、何の用だ」
「おいおい、俺の方が年上なんだから六郎さんとか六郎兄ちゃんて呼べよ。チイ兄ちゃんでもいいぞ」
「何の用だ」
「相変わらず可愛げのない奴だな」
九郎は何も言わず、ただ静かに六郎の目を見た。
「分かったよ。その子、白菊ちゃんの守り人に俺がなる」
「この子を渡すわけにはいかない」
「親父の命令だ」
九郎はゆっくりと首を横に振り、身構えた。
「親父を敵に回して、この俺と闘うつもりか？」
九郎はゆっくりと頷いた。大声で笑う六郎。
「全く困った奴だ。お仕置きしてやるところだが、親父の指示があるから今回は大目に見てやる。白菊と雛菊を会わせて、剣を一つにして天空へ戻す」
九郎が怪しむ目をした。
「それがお前の考えだろ？親父も同じ考えだ。その剣が地上にあると物騒でかなわない。その後が問題だ。お前は白菊ちゃんも守らなきゃいけなくなる。プレイボーイ九郎君は今でも女子二人を守っているんだろ。さすがに三人は無理だ。で、俺が白菊ちゃんを守るってわけだ」
六郎は九郎の横を通り過ぎ、白菊を担ぎ、剣を手に持った。
「いくぞ」
歩き出した六郎。九郎はその横をついて歩いた。
「お前が守っていた人は？」
「ああ。綺麗な子だったんだけど、俺に惚れちまったから、殺した」
六郎の顔には笑みが張り付いていた。

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