雛菊の剣

「誰!?」
陽子は見回したが、誰の姿も影さえも見えない。
『あなた、おっぱいも大きくてナイス・ボディなんだから、告白してみれば。九郎も喜ぶと思うわよ』
「な、なにを言うの。源は雛菊と相思相愛なの」
『九郎は剣を守っているだけ。あの娘を愛しているわけじゃないわ』
「雛菊は源を好きなの。私は友達として雛菊を応援する」
『九郎はあなたの方が好きだと思うけど』
陽子は胸を触る手のひらを感じ、声にならない叫び声をあげた。ベッドを跳び出し、パジャマのポケットにPを入れて、剣を持って部屋を出た。階段を駆け下りる音がする。冷蔵庫の開閉音。階段を駆け上がる音。陽子が部屋に入ってきた。パジャマのズボンに剣を差し、手に持っていたにんにくチューブの蓋を開けた。
「悪魔め！立ち去れ！」
後ろから頭に手を置かれ、陽子は叫び声を上げながら部屋の奥に走り、振り返った。ドアのところに陽子に似た母親が立っていた。
「あんたぐらいの年頃って色々変なことするから、見てて面白いけど、夜中はやめてね。近所迷惑。にんにくしまって、さっさと寝なさい」
頭の中に話しかけていた声の主が楽しげに笑ったような気がした時、頬をやさしく撫でる手を感じた。気がつくと、声の主の気配は消えていた。

山中に広がる白い野原の真ん中に掘っ立て小屋が立っている。その小屋に向かって九郎が歩いている。九郎の足元からは何かが壊れる音がする。野原を被っている骨が九郎に踏まれて悲鳴をあげているのだ。人骨も多く見られる。空を見上げている髑髏、九郎を見つめているかのような髑髏、彼らは何故この様なところにいるのだろうか。九郎は自分が踏み壊している骨が何の骨であるかなど全く意に介さずに歩を進める。不意に小屋の扉が開き、満員電車から人々が吐き出されるかのように、一つの巨体が出てきた。マウンテンゴリラよりも大きな体を持った生物は人だった。
「クソオヤジ、つまらない嘘をつきやがって」
九郎は小さな声で毒づいた。大男は、虫けらを見るかのような目で九郎を見下ろしている。
「七郎と八郎を殺したんだってな」
「ああ」
「今度はこの五郎様を殺しに来たのか？」
「まさか」
「そうだろうな。俺より下はクソだけだからな。やるんだったら、六郎をやりな。六郎だったらお前でも殺せる」
「それをいただきに来た」
九郎は五郎が引きずっている剣を見た。それは、天から落ちてきた雛菊の剣の半身だった。
「これは俺のものだ。俺に殺されに来たってことか」
五郎は大声で笑った。その声の大きさに共鳴して髑髏がカタカタと笑う。五郎は巨大な剣を軽々と持ち上げて、振り回した。
「お前は剣を奪いに来た者だ。殺しても、俺はオヤジに叱られない。謝れば、今回は見逃してやろう」

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・『雛菊の剣』
　自作の学園小説です。豊高の不良たちに絡まれる雛菊と陽子。雛菊は顔を見せぬ青年に救われる。屋上に残された白骨死体。彼の目的は…。

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