雛菊の剣

男が振り下ろした刀は虚空に止まり、それ以上陽子に近づくことが出来ない。
「まだ生きているのか。とどめをさしてやろう」
男は九郎を振り返る。九郎の右手がわずかに動いた。
「哀れな」
コン！
男が九郎の方へ行こうとした時、背後で音がした。振り返った男の目には、向かってくるルビーレッドの美しい小鳥が見えた。男は小鳥を斬ろうとしたが、刀を振る間もなく紅蓮の炎に包まれた。刀を残し、男は灰になった。Pはふらふらしながら九郎の上に落ちる。
「おい、P」
「ぴぃ」
「お前、間違ったぞ」
「ぴぃ？」

「あいつじゃなくて、カラスたちを焼き鳥にしろ」
Pは笑顔を浮かべて眠りについた。
「あとは猿一匹だ」
Pをそっと床に置き、九郎がゆっくりと起き上がる。その顔は苦痛にゆがんでいた。
「手を組もう。豊臣を敵に回す必要などなかろう」
「豊臣って、もうお前一人だ。なんで、お前みたいなおっさんと手を組まなきゃいけない。ふざけるなよ」
九郎は立ち上がるが、すぐに両膝を付いてしまう。
「わかった。カラスたちには手を出させるな。一対一で勝負しよう」
大笑いするカラスたち。
「あいつらは手を出さない」
九郎が再び立ち上がる。
「お前を殺した後もカラスたちは手を出さないだろうな」
「女たちと剣に手を出さなければ大丈夫だ」
「それを聞いて安心した。じゃあ、始めよう」
猿のような男は後ろに走り、大砲がのった台座の後ろに回った。
「ファイアー！」
男は奇怪な笑い声を上げながら叫んだ。大砲から飛び出した鉄球が九郎をとらえ、九郎を壁まで飛ばす。鉄球が大きな音を立てて落ちるのに続いて九郎も床へ落ちた。九郎の左腕が根本からなくなっている。
「くくくく。左腕がないじゃないか。次は頭だ」
バサ！
大鷹が床に降り立った。意外な光景にギョッとする男。大鷹は床に置かれているPを見ている。大鷹はPの周りを歩きながら、Pを観察した。
「なんだ、なんなんだあの鳥は」
男はどうしていいのか分からず大鷹をただ見ている。今まで退屈そうにしていた大ガラスも真剣に大鷹の行動を見つめている。大鷹がそーっと顔をPに近づけた。Pが小さく鳴いたのを聞いて大鷹はニヤリと笑い、Pを一口で飲み込む。大鷹は目を閉じて満足げな表情でげっぷし、不敵な笑みを浮かべて九郎を見た。

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